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ある日の暮方の事である。一人の同人屋が、羅生門の下で雨やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗にぬりの剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。羅生門が、秋葉原にある以上は、この男のほかにも、雨やみをするレイヤーや鉄オタが、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
何故かと云うと、この二三年、秋葉原には、コラボとかコミケとかイベントとか云うわざわいがつづいて起った。そこで洛中のさびれ方は一通りではない。コロコロコミックによると、仏像や仏具を打砕いて、その丹にがついたり、金銀の箔はくがついたりした木を、ダンボールにつみ重ねて、薪の料に売っていたと云う事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、ロリ作家が棲む。ショタ作家が棲む。とうとうしまいには、引取り手のないオタクを、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。
その代りまた鴉がどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾のまわりを啼きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻をまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の上にあるオタクの肉を、ついばみに来るのである。――もっとも今日は、刻限が遅いせいか、一羽も見えない。ただ、所々、崩れかかった、そうしてその割れ目に長い毛のはえた石段の上に、鴉の糞が、点々と白くこびりついているのが見える。同人屋は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖の尻を描いて、右のコマに出来た、大きな無修正を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。

サークル名 JMT
(ジェーエムティー)
ペンネーム 奈雲
(ナグモ)
PixivID https://www.pixiv.net/users/73017292
X(Twitter) URL https://twitter.com/kakurega555
サークル
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2022/03/18

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